研究概要 |
前年度では葉緑体DNAのモノヌクレオチドリピート領域をSSCP解析することで,キタゴヨウ種内の多型の検出を行った.この多型の塩基配列レベルでの変異パターンを調べるために,主要な4つのハプロタイプについてシーケンスを行った.その結果,実際にGリピートやAリピートといったモノヌクレオチドリピート領域の繰り返しの数に変異が生じていることが明らかとなった. キタゴヨウ集団の葉緑体DNAの遺伝的多様性は,ハイマツmtDNAの浸透の生じている集団と生じていない集団とでは差がほとんどなかった.集団間の分化の程度では,浸透集団ではGST=0.067,非浸透集団でGST=0.040であった.浸透集団間の方がGST値が大きいが,それでも0.1以下であり,大きな分化とは言えない.このことから,創始者効果といった大規模な遺伝的浮動が,mtDNAの浸透の原因になっているとは考えにくい. 他の要因として,地史的な原因を考えてみた.本研究で特定されたmtDNAの遺伝子浸透の生じている地域は、東北南部に限られている.緯度ごとにハイマツが分布可能な面積を計算してみると,本州の中で,ちょうどこの地域のみ面積が小さい.最終氷期以降の気候変動の中で,縄文海進(約6千年前)のころには気候の温暖化によって山岳の垂直分布帯は,200-400m上昇したと考えられている.この時期,東北南部の規模の小さい山岳では,山頂効果によって遺存したハイマツをキタゴヨウが取り囲むような状況が生じ,結果として特に大規模に交雑が生じたのではないかと考えられる. 形態的中間型の細胞質ゲイムのタイプは、東北南部ではmtDNAがハイマツ型・cpDNAがキタゴヨウ型という細胞質キメラが優占していた.しかし,東北北部の栗駒や八甲田では,両細胞質ともハイマツ型のものが多い.このような雑種の細胞質型の違いも,本州の中での山系の規模と関係するかもしれない.東北北部ではハイマツ集団の規模が大きいため,細胞質キメラがハイマツけの花粉を受けて,二次的に両細胞質ともハイマツ型になったと考えられる.
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