京都大学霊長類研究所に保管されている野生霊長類の骨格標本のうち、1976年にエチオピア国モジョ市で入手されたマントヒヒ(Papio hamadryas)とサバンナモンキー(Cercopithecus aethiops)、日本国内の屋久島で猿害駆除がされたヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)のそれぞれ約50個分の頭骨及び下顎骨標本の歯牙の計測をおこない、その形態的変異に関する解析をおこなった。 マントヒヒとサバンナモンキーの標本は、頭骨標本と下顎標本がばらばらに保管されていたので標本を整理し直し、上下顎を直接噛み合わせて同一個体の対になるように対応させて、計測をおこなった。ヤクシマザルに関しては上下顎が対応しているものが多かったので、そのまま計測をおこなった。計測項目は、上下顎の全ての歯の近遠心経と頬舌経、歯列長(第3大臼歯から切歯・犬歯・第3小臼歯までの長さ)、歯列幅(全ての歯)で、これらの計測値を統計解析ソフトを用いて解析した。 解析の結果わかったことは以下の通りである。上下顎ともに切歯の近遠心経・頬舌経の計測値には変異が大きいが、性差はほとんどない。上下顎犬歯は性差・変異ともに非常に大きい。上顎小臼歯・大臼歯の近遠心経・頬舌経には雌雄差がほとんどなくまた変異も小さい。特に上下顎第3大臼歯の変異性が低く、3種とも近遠心経・頬舌経の値がほとんど同じ回帰直線にのることから、同様のプロポーションを持つことが判明した。また全体的に頬歯(小臼歯と大臼歯)の中では遠心部の歯の方が変異が小さいことがわかった。
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