研究概要 |
高効率の光増倍素子材料として注目されている有機物ナフタレンテトラカルボン酸(1,4,5,8-naphthalenetetracarboxylic dianhydride;NTCDA)について、仕事関数の異なる金属面上に有機薄膜を作製した場合の、有機薄膜/金属界面での電子構造について、光電子分光法を用いて調べた。 その結果、AuやAgなどの不活性な金属上にNTCDAを蒸着した場合には、金属のフェルミ準位に対するNTCDAの最高被占有分子軌道(HOMOバンド)のエネルギー位置が、金属の種類にかかわらず、約1.7eV深い位置になり、ほぼ一定になることがわかった。このとき、金属表面から有機薄膜一層目への電荷移動が生じていると考えられるが、異なる金属間で、なぜHOMOバンドの位置が同じになるかについては、今後のさらに研究を進める予定である。 一方、活性な金属であるIn表面上にNTCDAを蒸着した場合には、Inの有機薄膜中への拡散により形成したと思われるギャップ内準位が観測された。これは、NTCDAと構造の似ている有機分子ペリレンテトラカルポン酸(3,4,9,10-perylene tetracarboxylic dianhydridc;PTCDA)の薄膜をIn上に形成した場合にも観測されている。さらに、発光材料として注目されているPTCDAとNTCDAの二層膜を作製し、これら二つの有機薄膜のエネルギー準位の関係について、光電子分光法を用いて調べた。その結果、PTCDA上にNTCDAを蒸着した場合も、その逆順に蒸着を行った場合も、二層膜間では、各々の有機物のHOMOバンドのエネルギー位置がほぼ一致して揃うことがわかった。この結果は、PTCDAとNTCDAから成る量子井戸に対する電気的測定の結果と矛盾しない。
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