研究概要 |
本年度,KCl(001)面上に真空蒸着法で単結晶のAl(001)薄膜を作製した。電子顕微鏡で結晶性を観察した結果,結晶性の良い薄膜が得られていることがわかった。この薄膜を,チャネリング実験のためにセルフサポートの状態で,また表面散乱実験のためにKClに蒸着したままの状態で,平成10年度に作製したゴニオメータに取り付けた。本年度はゴニオメータの回転機構をチャネリング実験のため二軸に増やし、結晶軸をビーム方向に1mrad程度の精度で回すことができるようにした。また,結晶の表面を清浄化するためのArスパッタ銃として用いる目的で,PIG型イオン源を変形した電子振動型イオン源を自作し,スパッタ銃運転中の真空槽の真空度とArイオンビーム量を測定した。この結果,真空度が1×10^<-5>Torrで1〜2μAのビームが得られることがわかった。ビーム量としては十分であるが,真空度についてはあと一桁程度の改善が可能であろう。 これらの準備の後,平成10年度に作製した小型の超高真空イオン散乱システムを用いて,奈良女子大学理学部物理学教室において,物質分析用静電加速器からの数100KeVのH^+,He^+ビームをゴニオメータ上の単結晶Al薄膜,単結晶Al(001)表面に入射し,散乱イオンの測定を行った。多結晶Al薄膜については,H^+入射における中性分率の測定を終え,本年3月の日本物理学会での発表を予定している。単結晶Al(001)表面の清浄化と平坦化に及んでいないため,表面散乱したイオンの収量も少なく,現在のところ十分なデータが得られていない。しかし,単結晶Al薄膜は結晶性が良いため,入射イオンを面チャネリングイオンさせることは簡単にできた。現在のところ面チャネリングイオンと表面散乱イオンのもつ情報を直接比較することはできないが,今後改良を加えたスパッタ銃でAl薄膜を清浄化し,散乱イオンの荷電状態の比較を行う予定である。
|