研究概要 |
製作した微小切削実験装置およびInSb素子とMCT素子を2層化した光ファイバ型2色熱放射温度計を用い,硬脆材料の微小切削におけるダイヤモンド工具の刃先温度を測定した.使用した切削工具は頂角136°のビッカース圧子形状の単結晶ダイヤモンド,被削材はAl_2O_3,Si_3N_4,ZrO_2である.切削速度は960m/min,切込みは0.5〜2μmとした.それぞれの被削材に対して角すい面をすくい面として切削実験を行った結果,切取り厚さが約1μmの時,工具刃先温度は,Al_2O_3,Si_3N_4の場合で約200℃,ZrO_2の場合で約220℃であった.ただし切取り厚さが1μmでは脆性モードと延性モードが混在しており,延性モード切削は切削の初期においてのみ観察された.そこで切削条痕と測定波形を対応させて亀裂や微小なチッピングが生じていない延性モード箇所に相当する工具刃先温度を測定波形から求めたところ,Al_2O_3,Si_3N_4の場合で約170℃,ZrO_2の場合で約180℃となった.延性モードの場合の方が脆性モードの場合よりも温度が低いという結果が得られた.切削抵抗を測定した結果,Al_2O_3,ZrO_2,Si_3N_4の順に大きく,工具磨耗もこの順に大きかった.工具磨耗が生じて以降は延性モード切削は実現されず,刃先形状の影響は大きいといえる.切りくずに関しては流れ型切りくずは収集,観察できず,切削条痕を観察したところ,延性モード部においては,切りくずが生成されるよりは盛り上がりとなって材料除去が行われていた.ダイヤモンド工具の稜線をすくい面とした場合では,角すい面の場合と比べて切削抵抗は小さく温度も低かったが,その差はわずかであった.今後はより安定した延性モード切削状況を実現するとともに,工具磨耗による刃先形状の変化が微小切削形態や工具刃先温度に及ぼす影響について検討を進める.
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