研究概要 |
レーザー光電界電離法では中性ガスに高強度超短パルスレーザーを照射し,原子に含まれるすべての電子を剥離し,多価電離した超高密度プラズマを生成する.このプラズマ中で多価イオンと電子が三体再結合を起こすことにより反転分布を形成し,X線レーザーを発振する.再結合を効率よく発生させるためには,低い電子温度が要求され,生成した高温プラズマを急冷する必要がある.予め生成しておいた電子温度の低い一価のプラズマに超短パルスレーザーを照射すると,生成する多価プラズマが急冷されることが既に報告されている.しかし,そのメカニズムは明らかにされていない.昨年度本研究でも,上記の現象の数値シミュレーションを行ない,急冷現象を再現できた.本年度には多価プラズマ内部の電子の流動構造や速度分布を分析し,急冷のメカニズムを明らかにした.数値計算では,レーザー照射により円筒状の多価プラズマが生成された瞬間を初期状態として,それ以後の膨張現象をシミュレートした.得られた知見を以下にまとめる. 1.高温の多価プラズマが低電子温度のプラズマ中で膨張する場合には,真空中で膨張する場合よりも10倍速く冷却が進行した. 2.初期状態において周囲のプラズマに存在した低エネルギーの電子と,多価プラズマに存在した高エネルギーの電子が急速に混合されることが分かった.膨張がほとんど進行していない段階でも多価プラズマ中の電子の半数は周囲プラズマから来た電子であった. 3.多価プラズマの電子は高エネルギーであるため素早く外に逃亡するが,イオンは質量が大きいので取り残される.このため多価プラズマの表面付近に強力な電界が形成され,この電界により周囲プラズマ中にある低エネルギーの電子が多価プラズマ中に引き込まれる.これが2で述べた急速な混合のメカニズムである.このことにより多価プラズマの電子温度は必然的に低下する.
|