研究概要 |
柔軟構造物に対するアクティブ振動制御技術における重要な課題の一つに,宇宙構造物の大型化に伴う分散制御系の導入とこれに対する信頼性,特に一部の制御系が故障したときの全系の安定性すなわち保全性の確保の問題がある.本研究では,通常のロバスト制御理論を拡張した「アダマール重み制御理論」を適用することにより保守性を回避し,保全性を考慮した制御器を設計する手法を提案することを目的とする. 本年度は,昨年度までの検討を踏まえ,以下の検討を行なった. まず,ノミナル性能の低い点を改善すべく数値計算により,制御器の低次元化を行わない場合,また仮想的な支持ばねを設けて原点極を消去した場合,さらにアクチュエータを内力を利用するプルーフマス型ではなくガスジェットなどの反動を利用するタイプとした場合の性能を計算し,これらの変更によるノミナル性能の向上を検討した.その結果,アクチュエータのタイプの変更が最も効果的であることが確認できた.ただし,これを元に分散化した制御器の性能は依然として低く,現在なお検討を続けている. この結果をにらみつつ,まず分散化を行わない制御器の制振性能を実験的に検討するために,ガスジェットの代りに固定面反力を用いる実験用構造物システムを製作した.アクチュエータにはボイスコイルモータを用い,構造物全体はベアリングにより上下方向に拘束した.この装置を用いて制御実験を行なった所,ベアリングの摩擦が予想以上に大きく,それを無視したモデルを用いた制御器では安定に制御できないこと,また,構造物の質量に対してアクチュエータの出力限界が低いことが明らかになった.このため,現在実験装置の再設計および改修を行っており,これが終了し次第あらためて制御器の再設計および制御実験を行う予定である.
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