研究概要 |
研究者は超伝導材料の高臨界電流密度化を目的として、超伝導体内部に人工的にピンニングセンターを導入する手法を用いた新しい材料の開発を行っている。この手法によりNbを人工ピンとしたNbTi超伝導線材における低中磁界領域での高Jc化が達成されているが、高磁界においてはJcが劣化する現象が観測されており、その原因の解明、及び改善が大きな課題となっている。本研究では、その原因の一つとして考えられる近接効果による上部臨界磁界の劣化に着目し、これを抑えるために常伝導コヒーレンス長ξnの異なるCuNi(ξn〜25nm)とCu(ξn〜300nm)を常伝導型人工ピンとして導入し、それらを量子化磁束サイズ、及びその間隔に適合した数十ナノ〜数ナノメートルスケールで導入されたNbTi超伝導極細多芯線材の設計・製作を実施した。そしてピン力Fpの温度・磁界依存性を測定し、Nb人工ピン線材とのピンニング特性の比較検討を行った。各線材のFpの磁界依存性は、従来から観測されているように超伝導型Nbピン線材では人工ピンを導入しない線材に対して3倍ものピン力の向上が見られ、さらにピンサイズの減少に伴ってピン力のピーク位置が高磁界にシフトする傾向が測定された。一方、CuNiピンは従来型と比べピン力は向上しているが、Nbピンほどは大きくなく、ピンサイズを減少させるとピン力は上昇するが、ピークの位置はNbピンとは逆に低磁界側にシフトする傾向が見られた。さらにCuピンの場合、ピン力の効果は小さく、ピン力のピークはブロードな曲線を描いている。有効上部臨界磁界Bc2*の測定結果、Cuピンを導入した線材が一番小さい値を示し、CuNi導入によるBc2*の低下は比較的小さかった。一方、TcはCuNi,Cuピン線材ともに従来型,Nbピンと比較して大幅に低下した。今後、ピン材料の物性の違いを踏まえたさらに詳しい解析を行う。
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