本研究の目的は、従来の単電子素子には全くない非対称トンネル障壁によってもたらされる単電子素子の可の実験的検証を行うことにある。 平成10年度においては、シリコン系物質を用いた非対称トンネル障壁作製プロセス用各種実験装置を立ち上げ、具体的にはSi(100)基板上に1100℃で形成した極薄シリコン熱酸化膜をアンモニアラジカルにより窒化することに成功しているので、平成11年度はそれに引き続いて、殆ど報告例がなくまた工業化の利点が大きいと思われる光励起プロセスによる窒化を試みた。光電子分光法や赤外吸収法により化学的な評価を行い、また更に、電流ー電圧特性測定などから電気的特性の評価を行うことにより、より組成的に急峻な構造を持ち、捕獲中心が充分に少ない熱酸窒化膜の作成プロセスの最適化を行った。個々の絶縁性障壁について、単電子素子としての動作の確認が出来るほどに十分な特性を得ることができた時点で、個々の絶縁性障壁を超高真空中に於いて連続的に堆積することによって、非対称トンネル障壁を作製する。3層構造における窒素組成の変化は、アンモニアラジカルによる窒化時間を1-3分にすることにより急峻になり、シリコン熱酸化膜の窒化を用いて非対称トンネル障壁が作成し得ることを示した。20nm以上の厚いシリコン熱酸化膜の窒化については、酸化膜表面の他にシリコン酸化膜/シリコン基板界面も窒化され、3層構造が形成されることが報告されているが、トンネル障壁に使用できるほどの極めて薄い熱酸化膜についての試みは初めてのものである。
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