研究概要 |
InAs量子細線デバイスの動作温度を向上させるため、安定な加工プロセスの確立を目指して研究を進め、InAs量子細線の電子輸送現象を調べるとともに、電子の波動性が発現しやすい表面超格子デバイスにおける電子輸送について研究を行った。 MBE成長したInAs/AlGaSbヘテロ構造を、光露光および選択ウエットエッチングにより量子細線に加工した。原子間力顕微鏡(AFM)による酸化支援プロセスにより、200nmのポテンシャル周期をもつ表面超格子デバイスに加工し、4.2Kにおける磁気輸送特性について調べた。細線幅や電流などのパラメータを変化させて量子細線を低磁場で測定したところ、これまでSiやGaAsでは見られたことのない大きなコンダクタンスの振動が、4.2Kという比較的高い温度で観測された。また、周期的なポテンシャル変調を与えた表面超格子デバイスの場合、低磁場でのコンダクタンスの振動が細線だけの場合と比べて大きくなっており、ポテンシャルの変調によってその振動が増幅されたためと考えられる。実験結果は、試料固有の伝導度ゆらぎ(UCF)とは異なる、デバイス構造に起因した電子波干渉の可能性を示唆しており、InAsヘテロ構造特有の大きな位相コヒーレンス長により、人工的に加工された構造パラメータが強く反映され、明瞭に電子波干渉が現れたと考えられる。このような実験結果は、GaAs系ではmK領域での測定でしか観測されていなかったが、InAs系においては、より高い温度で電子波の干渉効果を観測できることがわかった。InAs系へテロ構造の優位性を示すとともに、InAs系におけるブロッホ振動などを利用したテラヘルツ領域で動作するデバイスの開発が期待できる。 以上の結果は、国際学会Nonequilibrium Carrier Dynamics in Semiconductors (HCIS-11,Kyoto,Japan) およびAPS meeting 2000 (MN,America) において発表され、PHYSICA B,CONDENSED MATTERに掲載された。
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