研究概要 |
本年度は,通信路ならびに変復調回路がカオス同期に与える影響の調査およびカオス通信システムの通信品質を評価した。概要は次の通りである。 ● オペアンプよりも高速に動作するオペレーショナルトランスコンダクタンスアンプ(OTA)を用いて非線形抵抗を実現し,通信路がカオス同期に与える影響について調べようとした。しかしOTAを用いた場合,非線形歪みやノイズの影響などにより正常に動作しなかったため,調査する事ができなかった。 ● AM変復調回路を用いて,通信路の影響を調べてみたが,変復調回路の非線形性などにより,カオス同期は完全には達成されない事が分かった。 ● 通信性能を評価するために,ビット誤り率測定システムを作成した。具体的には,デジタル情報信号および復調信号をA/D変換ボードを用いてコンピュータに入力し,両者を比較することにより,ビット誤り率を測定している。 ● カオスマスキング通信システムを構築し,その性能評価を行った。カオスマスキングシステムのビット誤り率は,情報信号周波数が100Hz程度の時は0.002〜0.01,1kHz程度の時は0.1〜0.2であり,このままでは実用化する事は不可能である。 ● カオス変調通信システムを構築し,その性能評価を行おうとしたが,電流検出器が正常に動作しなかったために,評価することができなかった。何種類かの検出回路を試してみたが,同様の結果であった。 ● 通信路の影響を考慮したカオス通信システムを設計するまでには至らなかったが,これまでの調査結果から所見を述べると,アナログカオス信号を用いた場合,双方のカオス発生回路の回路パラメータを完全に一致させる事は現実に不可能であり,さらに通信路の影響なども受けるため,同期を完全に保持する事は困難であると思われる。デジタル回路で発生する離散カオス信号を利用すれば,パラメータを完全に一致させる事ができ,さらに従来の伝送方式を利用する事ができるため,同期はほぼ完全に達成されるであろう。また,カオスの持つ初期値敏感性によるセキュリティの向上も期待できる。
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