すでに提案した把持対象物に関する視覚情報と体性感覚情報を統合する神経回路モデルにモジュール構造を導入し、さらに中間層の構造を工夫することにより、把持対象物の大きさや形(円柱や球など)の情報を自己組織的に抽出するように発展させた。実測データを用いた数値シミュレーションにより、円柱と球をモジュール毎に分離し、それぞれの直径に関する情報を対応するモジュールの中間層のニューロンにおいて表現されることを確かめた。 昨年度に引き続き、ヒトがコップを取りに行くような把持運動の運動計画に関する心理物理実験も行なった。今年度は主にヒトの手指にゴムを取りつけることにより、手指のダイナミクスが変わった条件で把持運動を行ってもらい、その時の腕の運動軌道への影響を調べた。普通の把持運動と比べて、この条件では手指の運動には変化があったのにも関わらず、腕の運動の方には影響を与えていないことがわかった。すなわち、手指の運動と腕の運動のそれぞれの運動計画は脳内で独立に計画されているという仮説に反しない結果となった。 また、ヒトが実際にどのように視覚情報と体性感覚情報を統合しているかについての心理物理実験を行った。モータにより大きさの変わる対象物の大きさに合わせるように親指と人指し指の幅を調整させる実験を行った。このとき、運動情報の影響を除くために、指先もパソコンで制御されたモータで動かされるようにした。その結果、体性感覚のみで評価する指先の幅は指を開いて見積もる場合と指を閉じて見積もる場合で差が大きいが、指先の変化する幅をキャリブレーションすることによりその差が小さくなることがわかった。さらに他の条件で実験を行なった結果、この差を生んでいるのは視覚により認識した幅を、それに合った手指の関節角に変換する逆キネマティクスを計算する処理過程であることを示唆する結果が得られた。
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