高温超伝導セラミックスの臨界電流密度は微細構造に大きく影響される。しかし、セラミックス中の結晶粒界に存在する磁束ピンニング特性の決定要因に論究している報告例はなかった。本申請者は、磁束の存在形態調査およびピンニングエネルギーの評価を行い、磁束ピンニング特性の決定要因の明確化、および磁束ピンニング機構の解明を目的として研究を行ってきた。得られた成果を以下に記す。 1. セラミックス試料の磁束密度分布をホール素子法により測定し、(1)低磁場において、磁束はジョセフソン量子磁束として結晶粒界のみに侵入すること、(2)セラミックス試料を流れる超伝導電流は、粒界のピンニング力により決定されること、(3)試料全体の磁束密度分布は、粒子間電流だけでなく、粒子内電流、およびそれらの相互作用を考慮してはじめて説明できること、を明らかにした。 2. セラミックス試料の磁化曲線を臨界状態モデルに基づいた理論により解析した結果、(1)微細構造により結晶粒界の磁束ピンニング機構が異なること、(2)臨界粒子径より小さい粒子を持つ試料では、臨界電流密度が指数関数的に減衰するというイクスポネンシャルイモデルが、また、それより大きな結晶粒子をもつ試料には、一般化された臨界状態モデル(n=2)が適していること、を明らかにした。 3. 2の研究成果をもとに、様々な微細構造をもつ試料の解析を行った結果、ランダム配向のセラミックス試料では、粒界三重点が主なピンニングセンターとして働き、粒子径が小さくかつ密度の大きい試料において、臨界電流密度が高い事を明らかにした。
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