研究概要 |
平成11年度において本研究では,ガス吸着測定システム(チノー, IR-AM110)を用い,ポリピロールフィルム/水相互作用の熱力学的・速度論的解析を行った。吸着曲線は相対湿度の低い領域でラングミュア型,高い領域ではヘンリー型の二元収着モデルで表されることがわかった。一般にラングミュア型吸着は,高分子中に存在するボイドや空孔などの結合サイトヘの吸着と考えられ,PPy/DBS<PPy/TsO<PPy/ClO_4<PPy/BF_4の順で結合サイト数が増加することがわかった。また,ヘンリー型吸着は高分子マトリックス中への気体分子の溶解機構で表され,高湿度領域における直線の勾配より算出したヘンリー定数は,ドーパントの種類によらず一定であった。また,クラスター関数から算出したクラスターサイズから,90%の高い相対湿度においてもポリピロールフィルム中の水分子は凝集することなく,比較的孤立した状態で存在することが明らかになった。DSC測定において水の融解ピークが観察されなかったことから,フィルム中の吸着水は全て不凍水として存在すると考えられる。不凍水の数はピロールユニット当たり0.7〜1.6であり,ポリ(L-グルタミン酸)の20に比べて少ない。これは,共役二重結合によリポリピロール鎖上の電荷が非局在化していることに起因すると考えられる。速度論的解析から,水分子のポリピロールフィルムヘの拡散がフィックの法則に従うことが明らかになった。拡散係数はPPy/BF_4で最も大きく,2.43×10^<-8>cm^2/sであった。ドーパントの種類により拡散係数が大きく異なるのは,電解重合過程で形成される高次構造の違いによるものと考えられる。密度測定の結果より,フィルムの嵩密度は浮沈法から求めた値に比べて小さく,その差はPPy/BF_4でより顕著であった。これはフィルム中にボイドや空孔が多数存在するためであり,等温吸着曲線の結果と一致する。得られた実験結果より,フィルムの高速変形挙動は多孔性フィルムヘの水分子の素早い吸着・拡散によるポリピロール鎖のコンホメーション変化に基づくことが明らかになった。
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