研究概要 |
本年度は,現有の擬定常状態に基づく超臨界流体中での拡散係数測定装置を改良し,飽和溶解度に近く,より高濃度で狭い濃度範囲での拡散係数の測定が可能な装置を製作した。具体的には現在の拡散セルの前に新たに恒温槽を取り付け,以前に溶解度の測定に用いていた高圧セルを飽和用セルとして設置することにより,有限濃度の流体を拡散セル中に供給できるようにした。飽和セルを拡散セルとは別の温度(拡散セルの温度での飽和溶解度よりも低い飽和溶解度を示す温度)に保つことで,これまで純二酸化炭素を流していた拡散セル中に,溶質濃度の異なる流体を流すことが可能となった。本測定装置により,これまで得られていた溶質濃度0から飽和濃度(溶質のモル分率で10^<-3>のオーダー)までの比較的広い濃度範囲の間での平均値としての拡散係数だけでなく,設定温度・圧力での飽和溶解度を基準として,より飽和溶解度に近く,狭い濃度範囲での拡散係数が測定することが可能になった。測定系としては信頼できる溶解度データが存在し,無限希釈状態での拡散係数の報告例も比較的多い超臨界二酸化炭素+ナフタレン系を対象に,飽和用セルの温度を323.2K,328.2Kとし,拡散セルを温度308.2Kで圧力10.4MPaでの測定を行った。この結果,拡散セル中を流す流体の溶質濃度が増加するにつれ,拡散係数が減少するという結果が得られた。今後は,より濃度依存性が大きいと考えられており,拡散係数に異常性が観察された圧力近傍での測定を行い,拡散係数の濃度依存性についてより詳細に検討したい。また,既存の溶液中での拡散係数の濃度依存性を表現する式として提案されているDarken式を用いて超臨界二酸化炭素中でのナフタレンの拡散係数の濃度依存性の相関を行い,その適用性について検討を行った。この結果,液体中での拡散係数に対して提案されているDarken式が本測定系に対しても有効であり,超臨界二酸化炭素中でのナフタレンの拡散係数の濃度依存性を良好に再現できることが示された。
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