微生物が合成し蓄積するポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は生分解性という特徴を有する熱可塑性高分子であることから、環境に負荷を与えない無公害プラスチックとしての応用が期待されている。本研究では遺伝子工学的手法により、油脂や廃棄バイオマス(廃糖蜜や酒造廃液など)といった安価な炭素源から良好に増殖し、優れた物性のPHAを効率よく生合成・蓄積する微生物の育種を目指す。 土壌より単離したAeromonas caviae FA440株は中長鎖脂肪酸や油脂を炭素源として3-ヒドロキシブタン酸(3HB)と3-ヒドロキシヘキサン酸(3HHx)からなる共重合ポリエステル、P(3HB-co-3HHx) (3HHx分率10-25mol%)を合成・蓄積する。平成11年度は、これまでにクローニングしたA.caviae由来ポリエステル合成酵素(PHAシンターゼ)遺伝子を増幅した組換えA.caviae を作製し、そのポリエステル合成能について検討した。その結果、PHAシンターゼ遺伝子(phaC_<AC>)とその上流に位置するORF1を含むDNA断片を導入した組換え株は、野生株より高い3HHx分率(50-60mol%)からなるP(3HB-co-3HHx)を蓄積することを見いだした。ウエスタン解析や酵素活性測定の結果から、高3HHx分率からなる共重合ポリエステルを蓄積する株ではPHAシンターゼが高発現していることが示され、高い重合活性がポリエステル組成決定に関与している可能性が示唆された。 また、A.caviaeからnative PHAグラニュールを密度勾配遠心により単離してグラニュール結合タンパクの解析を行ったところ、A.caviae由来グラニュールには63kDa、14kDaの2種のタンパクが主に結合していた。63kDa結合タンパクはウエスタン解析からPHAシンターゼと同定された。また14kDa結合タンパクのN-末端アミノ酸配列から、PHAシンターゼ遺伝子上流に位置するORF1によりコードされるタンパクであることが示された。このことから、A.caviae由来PHA合成系遺伝子は14kDaグラニュール結合タンパク-PHAシンターゼ-(R)-特異的エノイル-CoAヒドラターゼの順でクラスターを構成していることが明らかとなった。
|