研究概要 |
本研究では、二種類の高分子AとBがそれらの片末端で共有結合により一本の分子鎖中に結び付けられているA-BジブロックコポリマーとA-Bの一成分と相溶性を持つ高分子Cの混合系におけるミクロ相分離とマクロ相分離による相分離構造の形成過程を明らかにすることを目的とし、初期条件としてミクロ相分離を起こさせてから、その後にマクロ相分離を起こさせた場合に注目し、その自己秩序化過程に関して検討を行った。用いた試料はスチレンイソプレン共重合体(S-I,数平均分子量Mn=176,000,スチレン重量分率=0.85)とポリビニルメチルエーテル(PVME,Mn=27,000)である。S-Iは単体でポリイソプレン部分が球状ミクロ相分離構造を形成し、かつその球状ドメインが体心立方格子を組む。PVMEはS-Iのポリスチレンに対して相溶性をもっている。そのため、S-IとPVMEを共通良溶媒であるトルエンに溶解し室温で溶媒を蒸発させることにより、ポリスチレンとPVMEが均一に相溶してイソプレンの球状ドメインがポリスチレンとPVMEのマトリックスに均一に分散した透明なフィルムを得ることに成功した。すなわち、この状態においてはミクロ相分離のみが起こっている状態である。このフィルムを昇温するとフィルムは白濁し、スチレンとPVMEの相溶性が悪くなることによりマクロ相分離が引き起こされることが分かった。このことより、S-I/PVME系においてミクロ相分離・マクロ相分離の順で相分離を起こさせることに成功した。この系を二相領域に温度ジャンプさせることにより、ミクロ相分離・マクロ相分離複合相転移における自己秩序化過程を時分割光散乱法・時分割小角X線散乱(SAXS)法を用いて調べた。その結果、S-I/PVME混合系の温度ジャンプによるマクロ相分離はスピノーダル分解によることがわかった。S-I/PVME混合系のスピノ-ダル分解は、S-Iが球状ミクロ相分離構造に拘束される効果およびBCC lattticeを組むことによるLong range orderの効果による相分離の遅延が起こっていることが明らかにされた。また、このマクロ相分離過程におけるミクロ相分離構造の時間変化は、マクロ相分離により、均一な系がS-Iリッチ相とPVMEリッチ相に相分離することにより、S-Iリッチ相においてS-I単体での安定な構造へと転移することを反映していることが分かった。
|