研究概要 |
1.昨年度考案した,クロロフィル蛍光とガス代謝(光合成)との同時測定による光化学系・炭酸固定系・光呼吸系の3者の相対バランスの評価法を用い,実際に正逆交雑F_1と両親との間の比較を行った。得られた結果としては,(1)クロロフィル当たりの個葉光合成速度に両F_1系統ともにヘテロシスが認められた。このことは上記3者のバランスが良好であり,総合値としての個葉光合成速度が向上したことを意味していると考えられた。(2)光化学系IIの量子収率はF_1系統において高く,光化学系において獲得,生産される光化学エネルギーが両親に比較して高いことが明らかとなった。(3)光呼吸率(炭酸固定に対する光呼吸の割合)はF_1系統において低く,これが個葉光合成速度を向上させた一要因として考えられた。(4)F_1系統の量子収率が高いのに対して光呼吸率が低い原因としては,単に炭酸固定速度が高いのではなく,その他のエネルギー消費機構により,エネルギーを消費しているためであることが低酸素下(光呼吸抑制条件)の測定結果から示唆された。(5〉正逆F_1間には,今回の検討項目においては明確な差が認められず,核外遺伝情報の影響を明確にするためには更なるアプローチ手法の検討が必要であると考えられた。 2.炭酸固定系のキー酵素であるRubiscoの諸形質における正逆F_1系統と両親との差異について検討した。得られた結果としては,(1)可溶性タンパク含量は両親系統ではサティバ種がグラベリマ種よりも高かった。F_1系統においては両親系統よりも総じて低く,さらに正逆間でも母親系統の影響が見られ,サティバを母親にもつF_1系統の方が高かった。(2)可溶性タンパク質当たりのRubiscoタンパク含量比は系統間で違いが見られ,F_1系統において両親系統より有意に高く,F_1のRubiscoタンパク合成能力が高いことが推察された。
|