研究概要 |
動物において必須脂肪酸として摂取されたリノール酸とα-リノレン酸は,独立した二系列の多段階酵素系によってアラキドン酸とエイコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸にそれぞれ変換される。これら多価不飽和脂肪酸は生体膜脂質の構成成分であるだけでなく,動脈硬化,炎症や老化などに関連する重要な生理活性物質であり,その代謝調節機構は今後解明すべき重要な課題の一つである。本研究では,全く解明されていなかったその代謝系酵素群のうち,最初の脂肪酸不飽和化反応を司るΔ6不飽和化酵素の遺伝子をラット肝臓から単離し,同定した。本遺伝子は最長444アミノ酸のタンパク質をコードしうる全長1573塩基対を含んでおり,その開始コドンから終止コドンまでを含む遺伝子断片を酵母内発現系に供したところ,リノール酸あるいはα-リノレン酸の存在下で,それぞれのΔ6不飽和化産物であるγ-リノレン酸及びC18:4n-3を新たに生成した。推定アミノ酸配列には,他種由来の脂肪酸不飽和化酵素に共通して見出される3つのhistidine boxを含み,N末端部分にはcytochrome b5と高い相同性を示す領域が存在していた。そこで,cytochrome b5欠損酵母内で同様に発現解析を行ったところ,Δ6不飽和化活性が検出され,宿主由来のcytochrome b5分子が必ずしも必要でないことが分かった。また,cytochrome b5相同領域のHPGGモチーフにおけるヒスチジン残基をアラニンで置換した変異体がΔ6不飽和化活性を示さなかったことは,この領域がcytochrome b5として機能している可能性を示唆した。
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