研究概要 |
変温動物である魚類は,環境水温の変動に伴い体温が変わる。このような体温の変化に対して,魚類は体質を変化させて体内の恒常性を保ち生命活動を維持している。しかしながら,この体質変化の機構は全く不明のままとされている。そこで本研究は,水温変化によって起こされる魚類の体質の変化をタンパク質分子レベルおよび遺伝子レベルで明らかにすることを目的にした。 1 高温で飼育したキンギョやコイでは高温馴化関連タンパク質Wap65の遺伝子発現量が顕著に増加する。本タンパク質の生化学的性状を明らかにするための第一歩として,未変性状態での単離法を確立した。体重約100gのキンギョを30℃で5週間飼育した後,血液を採取した。遠心分離後,得られた10mlの血漿から,分子量および特異抗体との反応を指標としつつ,ゲル濾過カラム,イオン交換カラムを用いたクロマトグラフィーにより,約1mgのWap65を精製した。単離されたWap65はSDS-PAGE上,単一バンドを示した。また,ゲル濾過法により分子量は65,000と同定され,本タンパク質がサブユニット構造をとらないことが示された。 2 肝臓は水温変化によって引き起こされる魚類の体質の変化において,重要な働きをしている可能性が示されている。そこで,水温によって発現調節を受ける本臓器中の遺伝子を検出するため,まず,10および30℃馴化コイの肝膵臓からmRNAを単離した後,cDNAを合成した。次に,合成したcDNAを鋳型としたディファレンシャルディスプレイ法によりmRNAの発現状態を比較した。その結果,低温馴化魚特異的に発現しているcDNA断片の増幅が検出された。
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