日本の農業経営の労働力は家族労働力が中であるが、農業法人経営においては非法人経営に比較すれば労働力構成は多様である。これはまた、労働力間での様々な軋轢の原因ともなる。その理由の一つには、労働力の客観評価の難しさがある。本年度は構成員・雇用労働力間の合意形成と労働意欲の観点から法人経営における労働評価・労働報酬決定システムを検討した。 設計したシステムの特徴は次のとおり。就労・雇用の初期段階では、作目や地域等で設定した標準報酬体系に従う。長期雇用者・長期経験者に関しては、年度間の経営成果への貢献度合いの変動に着目して報酬を設定。短期の変動に関しては賞与で対応。安定的な貢献に対しては基本給で対応。他産業並み給与からの脱却。構成員に関しては、上記に加えて、役員報酬等の形での経営参画に対する評価=利益処分を行う。経営状態の悪い法人経営においては、このシステムのたち上がり段階において何らかの支援も必要。 農業法人経営の問題点は次のとおりである。法人格を有する農業経営においてすら、経営の計数的把握が十分でない。現状の法人経営は個別に労務管理体系を確立するには小規模なものが多い。 本研究で考える労働評価・労働報酬決定システムは経営の改善を目指すものであるが、その設計を防げるものは経営状態の悪さ自体である。そのような経営では、構成員間でのトラブル等を防ぐため労働報酬の平等性にも意味を持ちうる。その場合、労働報酬以外の目標・誘因が必要となる。 今後の農業法人経営に必要な対策を次にあげる。計数把握の充実、特に客観的工程管理の確立。構成員、雇用労働力の意識改革。基本給・能力給・賞与の明確化。長期的な視点に立った利益処分計画。農業者や行政・研究機関等の協力による作目・畜種・規模・地域等ごとの能力評価=作業別労働報酬体系の確立。
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