研究概要 |
B細胞抗原受容体(BCR)が抗原により架橋されると、Syk,Lynなどのチロシンキナーゼ(PTK)が速やかに活性化され、それらの基質となる分子群をリン酸化する。その下流では、PLC_γやRas,RacのGTPaseなどがセカンドメッセンジャーとしての役割を担い、BCRからのシグナルを核へと伝達し、最終的に細胞の運命が決定される。我々は、PTKとその基質分子の橋渡し的役割を担うリンカー分子が、その細胞運命決定へのシグナル伝達を制御している可能性があると考え、BCR下流のリンカー分子であるHS1ならびにBASHの機能解析を行なってきた。 HS1は、通常でも、そのSH3ドメイン介した制御機構により核細胞質間をシャトルしている分子であり、抗原受容体架橋後はリン酸化されたHS1が速やかに核内に存在することを明らかした。またHS1はBtk基質の一つであり、BCR架橋によりBtkとリン酸化されたHS1が細胞質内で会合すること、その会合はHS1結合蛋白であるBP3依存的である結果を得た。また、HS1欠損マウスにおいて、PLC_γのリン酸化レベルが低下していることから、HS1はBtkと結合し、BtkによるPLC_γの活性化に関与している可能性が示唆された(投稿準備中)。BASHに関しては、BASH欠損マウスでのB細胞機能解析を行なったところ、BASH欠損によりB細胞の初期分化異常ならびに末梢B細胞の抗原反応性の顕著な低下が認められた。すなわち、BASHはpre-B cell receptorおよびBCRの直下に位置し、受容体下流の複数のシグナル経路を制御するリンカー分子であることが示唆された(J.Immunol.161(1998)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.(in press))。今後、これら分子の機能をさらに追求することで,BCR刺激によるリンパ球運命決定の制御機構を解明したいと考えている。
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