剖検例の糖尿病症例と非糖尿病症例のヒト冠動脈、大動脈の動脈硬化病巣の切片に各種の染色を行い、蛍光偏光顕微鏡でセロイド様自家蛍光物質の局在と形態を観察し、抗AGE(CML)抗体と抗マクロファージ(CD68)抗体を用いた酵素抗体法も施行した。またレーザー顕微鏡によって撮像した動脈硬化病巣の蛍光画像を白黒画像データーに変換し、画像解析装置を用いて病変の違いによる蛍光物質出現率の変化と出現病変の周囲長の違いによる個数および占有領域の相違を測定した。さらに波長選択フィルターを装備した顕微蛍光分光光度測定装置にて励起波長370nm下で、400nmから600nmの波長での粥腫内外の蛍光物質の蛍光強度を計測した。その結果、糖尿病症例の粥腫病変での単位あたりの蛍光量は、非糖尿病症例と比較して有意に高い値を示した。粥腫内のリング状蛍光構造の周囲長平均値は病変の中央部に向かうに従って増大する傾向を示した。このことは粥腫周囲の富細胞量域と異なり、細胞成分に乏しい粥腫中央部では脂質の蓄積と共に、セロイド様自家蛍光構造が広く領域を占拠していることで、構築面への影響がより増大している可能性を示唆している。また選択フィルターを用いた蛍光分光測定でも、大型のリング状構造では輝度上昇と共に、波長の左方へのシフトが観察された。酵素抗体法の結果、糖尿病症例の粥腫内の自家蛍光物質には抗CML抗体の陽性が観察された。またCD68も顆粒状構造を有する泡抹状細胞の他、細胞外のリング状構造の周囲にも陽性が認められた。以上から、糖尿病症例の粥腫病変ではセロイド様自家蛍光物質が増加しており、これらはマクロファージに由来し、病変内での脂質等の過酸化の影響が形成に関与するが、構造の周囲長増加が、蛍光波長のシフトと蛍光輝度増大を伴う点で、糖化反応による蛍光性を示すAGEの付加的な反応によって促進される可能性が示唆された。
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