研究概要 |
胸腺細胞の分化に関する研究の困難な点として(1)胸腺内T細胞が反応特異性の異なるTCRを発現する多クローンからなること(2)分化誘導に胸腺環境を必要とすること。が挙げられる。本研究ではこれらの点について、単一なTCRを発現するTCR-トランスジェニックマウスを用い、in vitroで3次元的な胸腺環境を再現する再凝集培養法を行うことによって解決した。 この系を用いれば、単一の細胞運命を全ての細胞に誘導することが可能となり、かつ分化は同調して誘導されるので様々な細胞変化を感度良く検出することが出来る。その結果、胸腺細胞の分化・増殖・細胞死制御におけるMAPKスーパーファミリーの役割として、(1)ErkはCD4+CD8+(double positive,DP)分化段階よりCD4+CD8-への分化進行において促進的に働く(2)JnkはCD4-CD8-(double negativr,DN)よりDP,SPへの移行期全般において生存の維持に重要であり、活性低下は結果として分化の遅滞をもたらす、ことが明らかにとなった。 一方、DPよりSPへの分化進行に伴い増殖能力・サイトカイン産生能力の亢進が認められるが、この変化はMAPKの活性制御とは無関係であった。しかしながら、その下流に位置するAP-1活性には大きな違いがあり、これはc-Fos蛋白の翻訳能力の変化に一因があるものと考えられた。分化に伴うMAPK経路の重要性に関して、今後は翻訳能あるいは蛋白の安定性の観点からも検討を加えることが有益と考えられた。
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