平成11年度は、BALB/c老齢マウスのリンパ節由来T細胞(Aged-LNT)を中心に解析を行った。平成10年度の研究結果より、老齢マウス脾細胞由来可溶化蛋白抗原(33kD)に対するモノクローナル抗体およびCD3^+CD4^+αβT細胞クローンを作製し、以下の解析を行った。 自己細胞に反応するAged-LNT(T細胞クローン)の特徴(細胞表面分子を中心とした解析):細胞刺激因子として、BALB/c老齢マウスの脾細胞、同マウス脾細胞より抽出した可溶化蛋白抗原、BALB/c若齢マウスの脾細胞、または同マウス由来、脾細胞より抽出した可溶化蛋白抗原を用いて、CD3^+CD4^+αβT細胞クローン(KKT)と5日間混合培養(MLC)を行った。MLC後の生細胞を回収し、フローサイトメーターにて細胞表面分子を中心に解析を行ったところ、KKT細胞はCD3^+CD4^+Vβ6^+であることが判明した。CD28分子の発現は極めて低いことが確認された。また、現時点においてVα鎖に関しては不明である。最近注目されているVα14について検討を行ったがPCRでは陰性であった。 KKTの抗原応答性:上記4種類の細胞刺激に対するKKTの抗原応答性をIL-2依存性細胞株であるCTLL-2の[^3H]-Thymidineの取込量を指標として測定した。KKTは同系老齢マウスの脾細胞に対してのみ抗原応答性を示し、同系若齢マウスの脾細胞に対しては抗原応答性を示さなかった。可溶化蛋白抗原に対するKKTの抗原応答性に関しては、脾細胞に対する抗原応答性と異なり、同系老齢マウス脾細胞由来可溶化蛋白抗原には反応せず、同系若齢マウス脾細胞由来可溶化蛋白抗原のみに応答が認められた。この結果より、KKTにより認識される自己抗原は、加齢により細胞内から細胞表面に発現している可能性が示唆された。 自己抗原の細胞表面での発現:Aged-LNTおよびKKTの抗原応答性の結果において、抗原である同系マウスの脾細胞に加齢による差異が示唆されたことより、脾細胞由来33.0kD分子に対するモノクローナル抗体を用いて細胞表面における発現の程度を解析した。33kD自己抗原分子は若齢マウス脾細胞表面上に比べて、老齢マウス脾細胞表面上に多く発現していることが判明した。また、このモノクローナル抗体存在下でKKTと老齢マウス脾細胞との混合培養を行うと反応が見られないことを確認した。 以上の結果より、老齢個体における自己細胞反応性CD3^+CD4^+αβT細胞は、細胞表面上に発現している33kDの分子を認識していることが判明した。この33kDの分子は、その発現に関して加齢と関係があることが推測され、H-2ハプロタイプの異なる他のマウスでの解析が必須であると思われる。さらに、この自己抗原分子の詳細な解析を行うことにより、自己免疫疾患予防の手がかりになる可能性が推察される。
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