H.pylori感染はこれまで慢性萎縮性胃炎、胃癌、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫など多様な疾患に関与していることが認められてきた。H.pylori感染と病態との関連が明らかにされるようになり、H.pylori感染診断は、治療を考慮するうえにも臨床上重要となってきた。すなわち、H.Pyloriを除菌することにより、胃粘膜の炎症所見の改善が認められ、H.pylori感染陽性の消化性潰瘍患者では、H.pyloriの除菌により、潰瘍の再発がおさえられる。また、H.pylori除菌により胃MALTリンパ腫の治癒や寛解が認められ、さらに、H.pyloriの若年期からの持続感染が、慢性胃炎から萎縮性胃炎へと移行し、分化型胃癌の発生に関与していると考えられており、H.pyloriの除菌は分化型胃癌の発生の低下にも寄与すると考えられる。そのためには、H.pylori感染の特異的高感度な診断法の確立が必要である。一方、H.pylori感染者の多くは消化性潰瘍、胃癌や胃MALTリンパ腫を発症するのでは無く、ごく一部の者に病態が生じるのである。これにはH.pyloriの病原因子の違いが関与していることが考えられている。H.pylori菌株に多様性があり、特定の病態に関与する菌のタイプの存在が検討されてきた。本研究においてH.pyloriの病原因子として、細胞空胞化毒素(VacA)、細胞空胞化毒素関連蛋白(CagA)を検討し、VacAとCagAを有する菌株は細胞障害が強く、萎縮性胃炎や胃癌との関連が強いと考えられた。H.pylori感染診断において、単なる存在診断だけでなく病原性をタイピングすることの出来る診断法が必要である。本研究ではさらに、vacA遺伝子のタイピングを行うため、PCRのプライマーの設定を行い、ゲノタイプを疾患別よりの臨床分離株で検討した。vacAは日本の株では80%がs1c/m1であり、20%がs1a/m1であった。しかし、ゲノタイプと疾患との相関は認められなかった。
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