研究概要 |
MTH1遺伝子とヒト発癌との関連を明らかにするため、まずヒトにおけるMTH1蛋白質の存在様式を中心に解析を進めた。抗ヒトMTH1抗体を用いたウェスタン解析では3種類のMTH1蛋白質(p22,p21,p18)を認めた。これらは選択的スプライシングによって生じる7種類のMTH1mRNAのうち5'側領域に位置する翻訳読み枠の一致した3つのAUGコドンを有するmRNAに由来し、これらが生体内でも翻訳開始部位として機能していることを示した。さらにMTH1遺伝子エクソン2c部分に存在する1塩基置換型の遺伝子多型の違いにより、別のMTH1蛋白質(p26)の有無が左右されることを発見した。またエクソン2c部分の多型とMTH1蛋白質p18のコドン83に相当する多型の間に連鎖不平衡を見い出した。これら計4種類のMTH1アイソフォームはいずれも8-oxo-dGTPase活性を有し、特にp26についてはN末端部分の配列がミトコンドリア移行シグナルとして機能する可能性が明らかになった。次にこれらの多型の頻度をゲノムPCR産物のSSCPおよびダイレクトシークエンスにより解析した。健常人および肝臓癌、肺癌などの各疾患患者の合計1001例について解析を行ったが、健常群と各疾患群で多型の頻度に統計学的な優位差を認めなかった。 MTH1と異なる機序で8-oxoguanineによるDNA傷害を抑制するヒトOGG1およびhMYH遺伝子産物についても解析を行ったが、これらもMTH1と同様に選択的スプライシングによって生じる複数の翻訳産物が核およびミトコンドリアの双方に局在し機能していることが明らかになった。今後はこれら協調的に働く遺伝子群の異常も含めた解析により、8-oxoguanineに関連したDNA傷害とヒト疾患の関連が明らかになるものと期待される。
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