研究概要 |
アルツハイマー病(AD)やパーキンソン病(PD)などの変性疾患に伴う痴呆の発現には,共通の因子や病的過程が存在することが推定されている.アミロイド前駆体蛋白(APP)、α-synucleinはともに老人斑構成蛋白であり,他に多くの共通点がある.両者のmRNA発現パターンを解析し,神経変性に果たす病因的役割を検討した.【対象と方法】AD27例,PD14例,PSP3例,脊髄小脳変性症(SCD)3例,運動ニューロン疾患(MND)3例,ダウン症候群(DS)4例,皮質基底核変性症(CBD)1例,ハンチントン病(HD)1例,対照(CTL)30例を対象とした.継代培養した患者皮膚線維芽細胞から細胞質RNAを抽出し,APP mRNA(APP695,APP751,APP770)とα-synuclein mRNAをRT-PCR法で増幅した.PCR産物を5%ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動後,オートラジオグラフィーにより各々のmRNAレベルを半定量した.【結果と考察】AD,PDでは,APP770 mRNAのAPP 695mRNAに対する相対比(APP770/APP695)及びAPP751 mRNAのAPP695 mRNAに対する相対比(APP751/APP695)が,対照群に比べ有意に増大していた.一方MND,DS,CBD,HDでは高い傾向を示し,PSP,SCDでは低い傾向であった.α-synuclein mRNAは,AD,PDにおいて有意に増大していた.MND,DSでは比較的高く,PSP,SCD,CBD,HDでは低かった.本研究により,Kunitz型プロテアーゼ阻害部位(KPI)をもつAPP mRNAの代謝異常がADとPDの発症に関与することが示唆された.ADとPDは臨床的にも病理学的にもオーバーラップすることが稀ではなく,PDの一部にAD類似の遺伝子異常が存在する可能性がある.またAD,PDにおけるα-synuclein mRNAの過剰発現は,α-Synucleinの量的変化が,ADでは老人斑形成に,PDではLewy小体形成に促進的に働くことを示唆させる結果であった.
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