研究課題/領域番号 |
10770490
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研究種目 |
奨励研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
精神神経科学
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研究機関 | 宮崎医科大学 |
研究代表者 |
植田 勇人 宮崎医科大学, 医学部, 講師 (70244192)
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研究期間 (年度) |
1998 – 1999
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研究課題ステータス |
完了 (1999年度)
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配分額 *注記 |
2,100千円 (直接経費: 2,100千円)
1999年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
1998年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
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キーワード | グルタミン酸トランスポーター / てんかん / 抗てんかん薬 / グルタミン酸 / ウエスタンブロット / ラット / 脳内微小透析法 / オンラインモニターリング / 抗てんかん剤 |
研究概要 |
(1)グルタミン酸トランスポーター(EAATs)に対するVPA投与の影響 2週間のVPA慢性投与は、GLAST発現を増加させ、GLT-1とEAAC-1発現を抑制した。鉄塩注入30日後まで追跡した我々のデータでは、EAAC-1は30日後まで持続的増加を、GLASTは対照的に30日後まで持続的にその発現が減少傾向を示し、GLT-1は30日後には対照群の発現量と同レベルに回復していた2)。VPA投与慢性投与後の、GLASTとGLT-1発現が異なった原因として、同じグリア型EAATsであっても、てんかん原性異常獲得過程におけるGLASTとGLT-1で異なる発現パターンを示すことが挙げられる。本てんかんモデルにおいても脳内微小透析法を用いたグルタミン酸濃度に関する研究が、今後重要な課題として残るが、多くのてんかんモデルにおいて海馬細胞外液中のグルタミン酸濃度が上昇していることを考えると、グリア型EAATsの発現減少は、細胞外液のグルタミン酸濃度に大きく関与すると考えられる。そうしたグルタミン酸の異常な上昇と最も関連深いEAATsの変動が、GLASTの発現減少であると考えられる。GLAST発現を増加せしめたVPAの慢性投与は、てんかん原性異常獲得後のグルタミン酸濃度上昇に対して、抑制的に作用するものと思われる。VPAはGLT-1と同様EAAC-1発現を抑制するが、てんかん原生異常獲得後のEAAC-1の発現増加に対しては抑制作用を示さなかったことは興味深いと思われる。EAAC-1はGABA作動性神経上にも存在し、GABAの前駆物質であるグルタミン酸を取り込み、GABA合成にも関与する機能的にユニークなEAATsである。てんかん原性異常獲得後のEAAC-1の発現増加は、GABA合成を促し、てんかん原性異常獲得過程における代償的作用を示す発現と考えられており、VPAはその発現上昇に対しては抑制しないことが示された。 (2)GAT-1に対するVPA投与の影響 VPAの慢性投与はGAT-1の発現を抑制し、てんかん原性異常獲得後に見られるGAT-1の発現上昇をも抑制した。抗てんかん薬の一つであるTiagabineは、GATの機能を抑制し、細胞外GABA濃度を上昇させることで抗てんかん作用を発揮することが明らかにされている13)が、VPAによるGAT-1発現の抑制効果も、GABAの再取り込みを抑制し、GABAの細胞外濃度を上昇させることで、前述したEAAC-1の発現増加とともに、抑制系を強化する方向に作用したのではないかと推測される。上記(1)と(2)の考察から、VPAのアミノ酸輸送蛋白発現に対する影響の中で重要な点は、VPAの慢性投与は、てんかん原性異常獲得後に低下するGLASTを増加させ、てんかん原性異常獲得後に増加するGAT-1を低下させる点である。てんかん原性異常獲得後の興奮系と抑制系の不均衡に対して、VPAはこれらアミノ酸輸送蛋白の発現調整を介し是正している可能性が示唆された。VPAの抗てんかん作用の機序として、Na_+又はK_+の透過性を低下させる側面や、GABA含有量を増加させ脳内抑制系を強化する側面など数多くの報告が存在する。本研究結果は、VPAをはじめとする抗てんかん薬の作用機序を考える場合、抗てんかん薬が持つEAATsやGAT発現への影響も考慮に入れる必要があることを示唆するものである。
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