研究概要 |
グルココルチコイド(GC)は,細胞質にあるグルココルチコイドレセプター(GR)に結合すると,熱ショック蛋白が解離して核内へ移行し,さらに二量体を形成して,標的遺伝子のGC応答配列(GRE)に結合することによりその遺伝子の転写活性化を引き起こす。そして,GC作用は,ホルモンとそのレセプターGRに加えて,転写共役因子(コアクチベーター)がGRに動員結合することにより,ホルモン作用の強弱が調節されることが示されている。 そこでまず初めに,内因性にGRが存在しない腎臓線維芽細胞由来COS-1細胞において,GRE-luciferaseをレポーター遺伝子として用いたTransient transfection assayにより,コアクチベーターの機能を検討した。,デキサメサゾン(DEX)の濃度を上げても,GRを発現させないとGR作用を認めなかった。次に,GRを外因性に発現させてDEX濃度を上昇させると,濃度依存性にGR作用の増加を認めた。そこに,外因性にコアクチベーターSRC-1を過剰発現させると,DEX依存性のGR作用がさらに5-〜10倍に増強された。しかし,GRとSRC-1を過剰発現させてもDEXを加えないとGR作用は全く消失した。以上の結果より,(1)GR作用の発現にはホルモン,GRおよびコアクチベーターの三者が必須であること,(2)またコアクチベーターは細胞内に内因性に存在するが飽和していないこと,(3)コアクチベーターの細胞内発現量の変化は,GR作用の増幅効果があること,(4)ホルモンがGRに結合しなければコアクチベーター単独ではGR作用を発現できないことが明らかとなった。この結果から,ホルモン処置によりコアクチベーターそのものの発現量が変化すれば,ホルモン作用の発現に大きな影響を与える調節機構となると考えられ,以下の研究を進めた。 そこで,本年はin vitroでラット腎メサンジウム細胞を用いてその調節を詳細に検討した。10^<-6>MのDEX処置にてNorthern blotでは2〜4時間後にSRC-1 mRNAレベルのdown-regulationを認めた。さらに,抗SRC-1ペプチド抗体を用いたWestern blotでは約6時間後にSRC-1タンパクのdown-regulationを認めた。GCにより腎臓メサンジウム細胞でコアクチベーターSRC-1の遺伝子転写レベルでのdown-regulationが明らかとなった。しかし,腎臓全体の中でメサンジウム細胞の占める割合は少なく,腎臓全体の約90%を占める尿細管細胞での調節を検討するために,マウス近位尿細管由来MCT-1細胞において同様の検討を行ったところ,10^<-7>〜10^<-6>MのDEX処置によりタンパクレベルで明らかなSRC-1のdown-regulationを認めた。したがって,in vivoのラット腎臓において認めたSRC-1のdown-regulationは,in vitroにおいても近位尿細管およびメサンジウム細胞においてmRNAおよびタンパクレベルにて確認された。以上の結果を考え合わせると,腎臓においてGC投与に対してその作用が過剰に持続しないように生体防御的にGRおよびコクチベーターのSRC-1がdown-regulationされていることが推察された。今後,SRC-1遺伝子のプロモーター領域にGREが存在するか否かなどの検討により,down-regulationの詳細な機序が明らかになることが期待される。
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