研究概要 |
自己免疫性1型糖尿病の成因には、抗原提示細胞の異常が深く関わっている。中でも、専門的な抗原提示細胞である樹状細胞は、1型糖尿病の成立過程においても重要な役割を演じる。 1型糖尿病患者やその第一度近親者では、樹状細胞の障害のために細胞傷害性T細胞が制御されずβ細胞破壊が進行する可能性を、高橋らは既に示した(J lmmunol,1998)。β細胞自己抗原特異的なTヘルパー(Th)1細胞はβ細胞傷害性T細胞の分化・活性化を促進し、Th2細胞はTh1細胞と拮抗しこれを抑制する。健常者にも、β細胞傷害性T細胞前駆細胞は存在するが(投稿中)、末梢において調節性Th2細胞を含む様々な抑制性の制御を受けているので、糖尿病は発症しない。抑制性調節性Th2細胞の分化は、樹状細胞上のCD86とT細胞上のCD28との相互作用に依存するが、1型糖尿病患者やその第一度近親者由来の樹状細胞では、CD86の発現が低い。そのため、1型糖尿病患者では,調節性Th2細胞が誘導されにくく、Th1優位の状態によってβ細胞破壊・糖尿病発症を促進する可能性がある。 本研究では、まず1型糖尿病患者の樹状細胞の異常が人種を越えて存在するか否かを確認するために,日本人1型糖尿病患者と、性、年齢をマッチさせた対照において、単球由来樹状細胞(MoDC)のフェノタイプ・機能を検索した。また、MoDCと自己CD4陽性T細胞とによる、自己混合リンパ球反応(AMLR)におけるサイトカイン産生性について検討した。 MoDC上のB7-2(CD86)発現の平均蛍光強度は、IDDM患者(31±15)では対照(57±14)と比較して有意に低かった(p<0.04,U test)。患者由来のMoDCのAMLRにおける自己CD4T細胞に対する刺激能は、対照と比較して有意に低かった。(患者:239±1170 cpm、対照:3567±2691 cpm,p<0.03,U test)。AMLRにおけるIFNγの産生には対照群と患者群との間で有意差を認めなかったが、IL-4、IL-10、IL-12、TNF αの産生は対照と比較して患者において有意に低かった。(IL-4:p<0.01、IL-10:p<0.05、IL-12:p<0.005、TNFα:p<0.05、U test)。 日本人1型糖尿病患者の単球由来樹上細胞のCD86分子発言の低下、自己CD4陽性T細胞刺激能の低下は、1型糖尿病における調節性Th2細胞の誘導の異常と関与する可能性がある。
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