研究概要 |
1.消化器癌細胞株におけるcystine rich transcriptional factor(CRTF,旧称:STAT-7)活性化とTIMP-1産生能 食道癌株KE3,TE9,胃癌株MKN28,MKN45,大腸癌株SW620,KM12SMに対してIL10,FBS,および大腸癌組織より単離培養した繊維芽細胞のコンディションメディウム(CM)刺激によるCRTFのhumanTIMP-1enchancer(HTE)結合活性をgel shift assayにて検討した.IL10刺激によりKE3,MKN45およびSW620細胞ではCRTF活性化を介したTIMP-1産生が亢進した.FBS刺激ではいずれの細胞もTIMP-1産生増強を認めたが,明らかなCRTF活性増強は認めなかった.繊維芽細胞のCM刺激ではMKN28以外はTIMP-1産生増強を認めたが,CRTF活性増強はSW620とKE3にみられた.SW620とKE3はCRTF活性化によるTIMP-1産生がみられる株であり,繊維芽細胞CM刺激によるCRTF活性化を介したTIMP-1産生が確認された.繊維芽細胞を各種癌細胞のCMで刺激すると,大腸癌株SW620とKM12SMの2株およびTE9のCM刺激によりCRTF活性化を介したTIMP-1産生増強が認められた. 2.ヒト大腸癌組織におけるCRTF活性化とTIMP-1濃度の検討 大腸癌腫瘍組織(T)のCRTF活性化は正常粘膜(N)のそれに比べて高かった.T/N比は中・低分化腺癌では高分化腺癌に比べ有意に高値を示したが,分化度の違いによる組織内のTIMP-1濃度の差異は認めなかった.in situ hybridizationの結果,高分化腺癌組織のTIMP-1産生細胞は癌細胞と繊維芽細胞であったが,中・低分化腺癌では繊維芽細胞が主体であった.以上より,分化度の低い癌組織の繊維芽細胞ではCRTF活性化を介したTIMP-1産生の亢進がみられ,癌細胞の分泌する何らかの液性因子がCRTF活性化に重要と考えられた. 以上より,消化器癌におけるCRTF活性化を介したTIMP-1産生経路の存在と本経路における癌細胞と繊維芽細胞との相互作用の重要性が示唆された.
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