呼吸筋は換気運動のジェネレーターであり、各種の神経・筋疾患において呼吸筋の収縮力低下により呼吸不全が発症するとされている。このように呼吸不全の一因と呼吸筋の機能不全、特に横隔膜疲労の関与が示唆されている。イヌを用いた敗血症モデルにおいて呼吸筋疲労の増加とともに一酸化窒素の産生も増加することが既に知られているが、横隔膜疲労と一酸化窒素の関係は不明であった。昨年度の研究では、生体内に存在する内因性の一酸化窒素の産生を抑制する一酸化窒素合成阻害酵素であるN^G-nitro-L-arginine methyl ester(LNAME)を投与した後に実験的横隔膜疲労を作成し、その収縮力を測定することにより一酸化窒素の役割を調べた。その結果、実験的横隔膜疲労作成前にLNAMEを投与することによって経横隔膜圧差の低下が認められないことから、横隔膜疲労の作成が抑制されたことが示された。今回の研究では、呼気一酸化窒素濃度の変化と横隔膜疲労との関係を調べた。雑種成犬を用い、静脈麻酔薬を投与した後気管内挿管して人工呼吸を開始した。両側頸部を皮膚切開して頸部横隔神経を剥離展開して横隔膜が刺激されるように刺激電極を装着した。胃と食道にラッテクスバルンを留意し、それぞれの圧を測定し、その差圧を経横隔膜圧差として横隔膜収縮力の指標とした。両側頸部横隔神経を連続刺激して実験的横隔膜疲労を作成した。横隔膜疲労作成前後の呼気一酸化濃度をBIO検体用化学発光一酸化窒素測定装置を用いて測定した。実験的横隔膜疲労を作成すると呼気一酸化窒素濃度は有意に上昇することが示された。この結果から、横隔膜疲労の指標として呼気一酸化窒素濃度の測定は有用であることが示唆された。
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