開腹手術を予定した糖尿病患者15人、糖尿病でない患者24人(若年者12人、高年者12人)を対象として、全身麻酔中における体温変動(中枢温として鼓膜温、末梢温として示指、前腕皮膚温)を調査した。それぞれの患者には、手術前に心電図R-R間隔変動、バルサルバ試験、Head-up tilt試験を行い、自律神経機能を解析した。自律神経機能障害は糖尿病患者群では8人に認められたが、糖尿病でない患者の群では3人であった。全身麻酔中は各群において体温の低下がみられ、群間に有意差はなかったが、糖尿病患者群における自律神経機能障害者は、他の糖尿病者や、糖尿病でない患者とくらべると、麻酔開始105分以降において有意に鼓膜温は低下し、150分後には34.6±0.4℃となった。さらに末梢血管収縮の程度を、前腕皮膚温-示指温で推測すると、それは自律神経機能異常者では正常者に比べて90分以降に有意差があり、中枢温の差との相関が示唆された。以上の結果より、自律神経機能障害のある糖尿病患者では、全身麻酔中の体温保持の機構として末梢血管収縮が十分に機能せず、低体温が進行する可能性のあることが考察された。 今後はさらに症例数を増やすとともに、皮膚血流、マイクロニューログラフィーによる末梢皮膚交感神経活動との関連を調査し比較検討したい。また、術後の合併症と自律神経系の回復を麻酔方法にも関連して、周術期的にアプローチしたい。
|