研究概要 |
1.母体側におけるタンパク結合の影響: 今までの研究によりプロポフォール(P)の胎盤透過性は胎児側のタンパク結合に大きく影響されるがわかった。そこで、Pの胎盤透過性は母体側潅流液中のアルブミン濃度にどのように影響されるかについて検討した。Pの胎盤透過性は母体側から胎児側への胎盤透過クリアランス(CL)により評価した。CLは母体側動脈中濃度(MA)、胎児側静脈中濃度(UV)、胎児側流量(Q_f)を用いて算出した(CL=UV×Q_f/MA)。胎児側還流液中のアルブミン濃度を44g/Lに維持し、母体側還流液中のアルブミン濃度を22,44g/Lと変えた条件下でPの胎盤透過性について調べた。その結果、アルブミン濃度22g/LにおけるPの胎盤透過クリアランスがアルブミン濃度44g/LにおけるCLの3倍程度の値となり、Pの胎盤透過性が母体側のタンパク結合にも大きく影響されることが明らかとなった。胎児側のタンパク結合がPの胎盤透過性を促進したのに対し、母体側のタンパク結合がその透過性を抑制する興味深い知見が得られた。妊産婦の血漿中のアルブミン濃度が大きく変動することが知られていることから、臨床におけるPの胎児への移行性は個体間変動が大きいと予測される。 2.胎児側ならびに母体側の血流量の影響 プロポフォールが速やかに胎盤を通過することは明らかとなったため、その胎盤透過性が胎児血流量ならびに母体の子宮血流量に影響されることが考えられる。帝王切開などの産科麻酔において母体・胎児の循環動態が変動することは多い。そこで、母体側の流量を15mL/minに維持した条件下で、胎児側の流量を0.5,1.0,2.0,3.0,4.0mL/minに変動させ、Pの胎盤透過性がどのように変動するかについて検討した。その結果、Pの胎盤透過クリアランスが胎児側の流量に依存して上昇し、元気な胎児ほどPの移行量が大きいことが示された。一方、興味深いことに胎児側のP濃度が胎児側の流量に全く影響されなかったことより、この増加したPの胎児移行が臨床で最も一般的に測定されるF/M比には反映されないことがった。従って、F/M比による胎盤透過性の評価に注意が必要であると考える。
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