研究概要 |
麻酔薬やアルコールの作用の一つとして、記憶の抑制や健忘作用があることが知られているが、そのメカニズムは未だに解明されていない。最近、G蛋白結合受容体が中枢神経系において記憶に関与しているという報告がなされている。G蛋白結合受容体のなかでもメタボトロピックグルタミン受容体はムスカリン受容体と大きくその構造が異なり、麻酔薬やアルコールがこれら構造の異なるメタボトロピックグルタミン受容体にどのように作用するか関心がもたれている。一方、アフリカツメガエル卵母細胞発現系は中枢神経系のG蛋白結合受容体に対する薬剤の作用を検討する実験系として広く使用されている。今回の私の研究(Mol Pharmacol,53:148-156,1998)においては麻酔薬の記憶障害作用や健忘作用を詳しく探る目的で(1)アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いて、麻酔薬イソフルラン、ハロセン、エンフルランとアルコールが2つのメタボトロピックグルタミン受容体のサブタイプ(mG1uR1,mG1uR5)にいかに作用するかを検討し、イソフルラン、ハロセン、エンフルラン、とアルコールはmG1uR5に対して抑制効果を持つが、mG1uR1に対しては影響がないこと、さらに(2)燐酸化酵素阻害薬を用いてこれらの抑制作用に細胞内燐酸化酵素がどのように関与しているかを検討した結果、Protein Kinase Cの選択的阻害薬GF109203Xはイソフルラン、ハロセン、エンフルランとアルコールはmG1uR5に対する抑制効果を消失させた。更に、(3)燐酸化酸素と麻酔薬、アルコールの関係を明かにするためmG1uR5のProtein Kinase Cの燐酸化部位を他のアミノ酸に変えたMutant receptorをつくり、麻酔薬やアルコールの作用を調べた結果、Ser890をG1yに変換したものにはイソフルラン、ハロセン、エンフルランとアルコールのみられなかった。これらの結果より麻酔薬やアルコールのメタボトロピックグルタミン受容体への抑制機序としてPotein KinaseCが関与していることを明かにした。現在、これらの結果をさらに他のG蛋白結合受容体や循環作動物質についても検討している。(Anesth Analg84:190-195,1997,J Parmacol Experi Thera,281:1136-1143,1997;Naunyn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol,357:70-76,1998,Eur J Pharmacol Eur J Pharmacol Vol.339:237-244,1997)
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