睾丸腫瘍の治療成績はシスプラチンを中心とした多剤併用の化学療法の発展により向上している。しかしIIIc期等の進行期症例においては未だ予後が悪い。したがってアンチセンス法による遺伝子治療などの新しい治療法の開発は臨床的に重要な意味を持つ。アンチセンス法を用いた遺伝子治療とは、特定のメッセンジャーRNA(mRNA)に対し相補的配列を持つアンチセンスDNAを用い、目的mRNAとアンチセンスDNAがDNA-RNA複合体を形成し特異的に遺伝子発現を阻害する方法である。われわれは以下のことを研究した。(1)B-myb遺伝子が細胞増殖に関連する遺伝子であること確認した。(2)B-myb遺伝子産物の転写因子としての細かな機能解析を行い、B-myb遺伝子産物のC末端の欠損あるいはC末端がサイクリンAあるいはサイクリンEによりリン酸化されることにより強力に転写活性化されることを明らかにした。(3)精母細胞、精粗細胞、睾丸腫瘍細胞においてB-myb遺伝子が強く発現されていることを明らかにした。(4)睾丸腫瘍細胞におけるB-myb遺伝子発現が強いことを発見した。(5)アンチセンスB-myb遺伝子(5μM)を睾丸腫瘍細胞NEC8に添加し4日間培養した。コントロールのDNAを導入した細胞に比較してアンチセンスB-myb遺伝子導入細胞は増殖が抑制されることを見いだした。(6)睾丸腫瘍細胞の増殖に関連したB-myb遺伝子を抑制することにより、睾丸腫瘍細胞の増殖を抑制可能なのではないかとの仮説をたて、アンチセンスB-myb遺伝子による遺伝子治療の基本モデルの作成を試みた。
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