本研究の目的は先天性横隔膜ヘルニアを大きな侵襲を加えて胎児期に一時的に修復するのではなく、胎児の気管を内視鏡下に圧迫あるいは結紮することで、肺胞液の流出を止め、胸腔内圧を上昇させ、これにより肺の発達や発育をうながそうという試みで、これが実現されると出生後の修復手術により高い生存率が期待できる。今年度の研究実施計画は妊娠羊を用いて胎児横隔膜ヘルニアモデルを作成し、気管の圧迫による肺成熟や発達の促進効果の有無を検討する予定であった。今回は、妊娠120-130日の妊娠羊4頭に対し気管の圧迫による肺成熟や発達促進効果の有無の実験を行った。母獣にラボナールを静注後気管内挿管し、ハロセン2-3%の吸入麻酔下で母獣の腹壁と子宮筋を切開し、胎仔の頚部皮膚に切開を加え、動脈に血圧と血ガス測定用カテーテルを留置、静脈には抗生剤注入用カテーテルを留置し、気管内に気管内圧測定用バルーンカテーテルを挿入した。呼吸運動測定の為、胸筋に筋電コードを装着し、心電図と心拍数測定の為、心電コードを装着した。また羊水腔に抗生剤注入用カテーテルを留置し、母獣静脈に採血及び抗生剤注入用カテーテルを留置した。術後4日間毎日抗生剤を母獣・胎仔・羊水腔に投与し、手術による侵襲が無くなったと思われる5日目に実験を行った。うち3頭は5日目までに胎仔死亡と早産となった。実験は残り1頭に対し気管内バルーンカテーテルに生理食塩水を注入してバルーンを膨らまし、気管圧迫と解除を数回繰り返し、気管内圧・呼吸運動・心電図・心拍数・血圧を測定し、最後に気管圧迫した状態で終了した。以後連日全てをモニターし変化を観察する予定であった。結果として5日目は気管圧迫と解除に対し変化なく、6日目に早産となった。胎仔の解剖により気管内にバルーンは十分に装着されており、肺重量は未実験のものと変わらなかった。
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