研究概要 |
1.HELLP症候群患者における血清HGF濃度の測定 正常妊婦およびHELLP症候群患者から血清を採取し,ELISA法によって血清HGF濃度を測定した.正常妊婦血清HGF濃度が0.44±0.20ng/mlであったのに対して,HELLP症候群患者では1.17±0.58ng/mlと著明な高値を示した. 2.正常妊婦・HELLP症候群患者血清をそれぞれ培養血管内皮細胞に添加した際のHGFの受容体c-met mRNAの発現を半定量的RT-PCR法を用いて経時的に検討した. 正常妊婦血清添加6時間後からc-met mRNAは添加前に比して2倍に増加したが,HELLP症候群患者血清添加では24時間後も変化を認めなかった. 3.HELLP症候群患者におけるc-metの遺伝子変異をPCR-SSCP法を用いて評価した. 悪性腫瘍においてすでに異常が報告されている三つの遺伝子配列についてPCR-SSCP法を用いて検討したが,HELLP症候群患者と正常妊婦との間には遺伝子配列の違いを認めなかった.しかし,今回我々が独自に検討した配列では,HELLP症候群患者のc-metにおいて異常バンドの出現をを認めた. 結論:HELLP症候群はDICに伴う多臓器不全であり,生体内では血管内皮細胞や肝細胞の障害が起こっている.これに対して血清HGFが代償性に増加していると考えられる.しかし,正常妊婦血清添加で認められた正常血管内皮細胞におけるc-metの発現増強がHELLP患者血清添加では認められなかった.また,HELLP症候群患者のc-metには遺伝子変異が発現していた.これらの結果から,HELLP症候群患者ではHGF産生系は正常に機能しているが,c-met系の異常によって血管内皮細胞や肝細胞におけるHGF/c-met系を介した修復機能が低下しているためにHELLP症候群特有の重篤な病態が形成される可能性が示唆された.
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