研究概要 |
真珠腫上皮における上皮の角化、すなわち最終分化について、分化のシグナル伝達に中心的な役割を果たしていると考えられているプロテインカイネースC(PKC)のアイソマーであるPKCδとPKCηのそれぞれの蛋白の真珠腫上皮における発現について検討した。PKCδ、PKCη蛋白は共に、真珠腫上皮においても正常皮膚に近い発現パターンを示したことから、真珠腫上皮における最終分化は正常皮膚と同様に行われていると考えられた。真珠腫上皮では、各種サイトカインの増加によって過増殖の状態になった上皮に対して、正常な最終分化とアポトーシスによる調節が行われた結果、中耳真珠腫の特徴であるケラチンデブリの異常堆積が生じているという可能性が示唆され、このケラチンデブリの産生を抑制することが中耳真珠腫に対する保存的治療法や再発予防への手がかりとなると考察した。 日常診療においても、ステロイドの点耳薬でケラチンデブリが減少することは度々経験することである。そこで、中耳真珠腫上皮の過増殖や周囲組織の骨吸収を引き起こす各種サイトカインに対するDexamethasoneの抑制効果を検討する目的で、健康な成人血清からリューコプレップ法で得られたperipheral blood mononuclear cells(PBMC)にToxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)を添加して、PBMCからのIL-6,TNF-αの産生を誘発した。各濃度のDexamethasoneを加えて、RPMI 1640培地中で20時間培養後、上清をELISA法にて解析したところ、これらのサイトカインはいずれもDexamethasoneによって抑制されることが分かった。現在、正常ヒト表皮角化細胞の培養組織を用い、同様にDexamethasoneによる抑制効果について検討を行っている。
|