研究概要 |
目的 めまい検査における追跡眼球運動検査((ETT〉は、通常、頭部を固定して行っているが、これにより前庭刺激を排除できるものの、目常生活上での指標追跡とは性質が違ってくる。特に、高齢者においては、ETTが障害されているかのごとく見られることがあり、真に中枢性障害なのか、判断が困難となる。そこで、頭部運動を自由にして、ETTを施行し、頭部固定ETTと比較、検討した。 方法 被験者は正常成人20名、22〜25才(平均22.5)。眼球運動はEOG、頭部運動はサーチコイルシステムで記録し、記録時間は30秒とした。分析方法はサンプリングタイム100H_Zでコンピュータに取り込み利得を計算した。ETT刺激は振幅60^○(左右30^○、上下30^○)とし、波数は3,0.4,0.5,0.6、0.75,1.0 H_Zを用いた。完全暗所下で、まず、頭部固定(head-fixed)でコントロールをとり、頭部運動を自由にし(head-free)、以下の条件でETT刺激した。Instruction(+): 水平ETT、なるべく眼球だけで指標を追うよう指示(n=10)、Instruction(-):水平ETT、特に指示せず(n=10)、Upward:垂直ETT、なるべく眼球だけで指標を追うよう指示(n=10)、Downward:垂直ETT、なるべく眼球だけで指標を追うよう指示(n=10) 結果 水平ETT、instruction(+)では、高い周波数で、head-free方が利得が大きくなる傾向がみられたが、統計学的に有意差はみられなかった。高齢者では、head-freeで利得が大きくなった。若年相被検者の中でもhead-freeで利得が大きくなる例が見られた。水平ETT、instruction(一)では、head-freeで利得がむしろ小さくなる傾向がみられた。また、頭部運動の利得の割合が大きくなった。垂直ETT、downwardでは0.5から1.0H_Zまで、upwardでは0.6から1.0H_Zまで、head-freeの方が利得が大きくなる傾向がみられたが、統計学的に有意差はみられなかった。 まとめ 水平ETTでは、instruction(+)、instruction(一)ともに、眼球と頭の共同運動による、利得の上昇に有意差は見られなかった。これは、今回の若年相の被験者での検討であり、彼らは比較的早い指標刺激にも、眼球だけの追跡眼球運動が可能であったため、頭部運動の貢献が大きく現れなかったものと考えられた。一方、高齢者の水平ETTでは、眼球と頭の共同運動により利得の上昇が見られ、また、垂直ETTでは、同じ若年相被験者で、眼球と頭の共同運動により、利得が大きくなった。眼球、頭部が同じ方向に動き、共同運動によって指標追跡するためには、前庭刺激をキャンセルすること、すなわち、VOR抑制が必要である。その機序については、議論の多いところであるが・水平ETTでは、比較的早い指標刺激にも、眼球だけの追跡眼球運動が可能であり、眼球運動こよる指標追跡能の低下、すなわち加齢現象や、病的症例において、頭部運動の割り合が大きく現れてくること、また、垂直ETTでは、VOR抑制の機序が水平ETTとは異なる可能性があること、が推測された。
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