研究概要 |
新生児の炎症時における尿中トリプシンインヒビ夕ー(UTI)値の変動を調べる目的で、健康な成熟児5例と新生児手術症例14例を対象に、その尿中UTI 値をRadioimmunoassay法によって測定した。まず、健康な成熟児では、日齢1日から5日まで測定したところ、1日目:132±36(U/mgCr,Mean±SE)、2日目:162±36、3日目:209±55、4日目:199±46、5日目:253±50と増加傾向を認めた。これらの値は、幼児の尿中UTI値17±3よりも有意に高値を示した(U-test,p<0.01)。次に手術症例では、術前CRP陽性例の尿中UTI値は、それぞれ433、728、819 で健康な成熟児より有意に高かった(U-test,p<0.05)。その術後の変動は、1例を除いて血中CRP値の変動に概ね類似していた。一方、術前CRP陰性例の尿中UTI値は172±34で健康な成熟児と有意差はなかったが(U-test,p>0.05)、その術後の変動はさまざまであり、血中CRP値のような一定のパターンは示さなかった。尿中UTI値は、血中CRP値と正の相関関係を示した(r=0.520,p<0.0001)ものの、手術後の尿中UTI値の変動には、血中CRP値とは異なる変動のパターンを示す症例も認められた。新生児の尿中UTI値は日齢による変動も大きく、また、炎症が生じた時にも血中CRP値のような一定のパターンを示さないことがわかった。結論として、新生児における尿中UTI値は、炎症のマー力としての臨床的意義は少ないことが判明した。しかし、新生児ではなぜ内因性のプロテアーゼインヒビターであるUTIが成人より10倍以上も多量に産生されているのかという問題は未解決のままである。現在、UTIはショックや急性循環不全に対する治療の目的で新生児にも使用されており、UTIの投与のタイミングやUTIを補充する意義を含めて今後検討を重ねる必要がある。
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