研究概要 |
生体組織は一般に水を含む生体高分子系で,骨や歯牙などの硬組織とそれ以外の軟組織に分類される。高磁場NMRによるこのような系の緩和過程においては,交差緩和なる現象,すなわち磁化移動現象(分子間スピン拡散)を考慮することが重要である。これまでに軟組織におけるこれらの研究は進められてきたが,硬組織についてはほとんど行われていなかった。今回申請者は,マウスの歯牙組織を用いて,硬組織内の磁化移動現象について研究した。 〔実験材料と方法〕 硬組織のサンプルとしてddYマウスの歯牙組織を用い,歯髄を含んでいるもの,歯髄を除去したものをそれぞれ測定した。軟組織の対照として,その水晶体を用いた。測定装置は,500 MHz ^1H-NMRスペクトロメーターを使用した。NMRパラメータは,縦緩和時間(T_1),分子間交差緩和時間(T_<1S>)を用いた。T_1は,inversion recovery法を用いT_<1S>値はAkasaka法のinversion recovery法を用いた。また各組織の含水量も同時に測定した。 〔結果と考察〕 マウスの歯牙組織における含水量は,歯髄を含めたものが16.78±2.28%(n=9),除去したものが15.15±1.87%(n=4)であり,ヒトの歯牙組織におけるセメント質に近い含水量を示した。磁化移現象については,生体内軟組織と同様に,歯牙組織においても,構成成分から水分子へと分子間スピン拡散が生じていることが示唆された。また歯髄を除去した硬組織だけでも,同様に分子間スピン拡散が生じていることが示された。したがって,硬組織内においても磁化移動現象が生じていると考えられ,この現象を臨床用MRI装置に利用することによって,硬組織の新しいMRイメージングの可能性もあると考えられた。
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