研究概要 |
平成11年度 咀嚼障害による脳組織変化と脳内メタロチオネイン(MT)-III発現量の解析について ddYマウス♂を(1)固型飼料を与えた無処置群:対照群 (2)粉末飼料を与えた無処置群:(粉末)-(無)群 (3)固型飼料を与え,4週齢で下顎臼歯を左右1本ずつ抜歯した群:(固形)-(抜歯)群 (4)粉末飼料を与え,4週齢で下顎臼歯を左右1本ずつ抜歯した群:(粉末)-(抜歯)群,以上4群(各4〜6匹)に分けて3ヶ月および6ヶ月間飼育した。 各群の脳内MT-III mRNAの発現量を解析するため,大脳皮質,線状体,海馬よりそれぞれRNAを抽出し,マウスMT-III mRNA特異的に認識するプライマーを用いたRT-PCR法にて定量的に解析を行った。大脳皮質,線状体,海馬それぞれのMT-III mRNA発現量は,3ヶ月飼育後,6ヶ月飼育後ともに大脳皮質>海馬>線状体の順に高かった。3ヶ月飼育後,大脳皮質において対照群と比較して他のいずれの群も有意にMT-III mRNA発現量が減少していた。線状体では対照群と比較して他のいずれの群も発現量が減少する傾向にあったが,有為に減少していたのは(粉末)-(無)群のみであった。海馬ではいずれの群にも有意な差はみられなかった。一方,6ヶ月飼育後では,大脳皮質においてのみMT-III mRNA発現量が3ヶ月時と比較していずれの群も減少していた。また対照群と比較して(粉末)-(抜歯)群にのみ有意な減少がみられた。マウス脳におけるMT-IIIの発現は老化に伴って大脳皮質において著しい減少がみられたが,粉末飼料を与えたマウスや臼歯を抜歯したマウスではその減少が対処群よりも早い時期からみられるということが本研究で明らかになった。 MT-IIIはアルツハイマー病患者脳において大脳皮質第2〜6層で発現量が減少しているという報告があることから,粉末飼料での飼育や,臼歯を抜歯することにより起こる咀嚼機能への影響が大脳皮質におけるMT-III mRNA発現量の減少を加速化する要因となっていることは非常に興味深い結果である。
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