ラット下顎切歯の動きに対しては、歯髄や歯根膜といった局所の血圧や血流量の変化が影響を与えている可能性が考えられる。これまでに、補助金にて購入したレーザー血流計を用いることによりラット切歯歯髄内血流量の連続測定が可能であることを確認している。そこで今回、アドレナリン作動性薬物の静脈内投与時における歯髄内血流量の変化を、切歯の動き及び尾動脈圧の変動と同時に測定し、それらの関連性について検索を行った。 実験には体重約360gの雄性ウィスター系ラットを使用し、人工呼吸器を介して1%のハロタンを吸入させることにより全身麻酔を施した。動物には、1μg/kgのアドレナリン、ノルアドレナリン及びイソプレナリンを足背静脈より投与し、薬物投与時のラット切歯歯髄内血流量、切歯の動き及び尾動脈圧の変動を、それぞれ非接触型レーザー血流計、非接触型変位計及び圧力トランスデューサーを用いて測定した。 アドレナリンを投与した場合、ラット切歯歯髄内血流量は、切歯の挺出及び引っ込みや尾動脈圧の上昇と下降に伴って、それぞれ一過性の増大(最大増加率;15.8±8.0%)とそれに続く顕著な減少(最大減少率;49.5±17.6%)を示した。ノルアドレナリンを投与した場合、歯髄内血流量は切歯の挺出や尾動脈圧の上昇に伴って、一過性の増大(最大増加率;15.5±9.3%)を示した。イソプレナリンを投与した場合、歯髄内血流量は切歯の引っ込みや尾動脈圧の下降に伴って、顕著な減少(最大減少率;31.2±8.4%)を示した。以上の結果から、ラット切歯の動きに対して、歯髄内血流量や血圧の変化が密接に関連している可能性が示唆された。今後さらに、他の血管作動薬や交感神経遮断薬、神経節遮断薬などを静脈内投与した際の歯髄内血流量、切歯の動き及び全身血圧の変動などを同時に測定し、局所血流の変動と切歯の動きとの関連性について、より詳細に調べる予定である。
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