研究概要 |
申請者は,齲蝕の主要な原因微生物であるStreptococcus mutansに特異的なSIgAを唾液中に多量に誘導すれば,齲蝕の特異的予防が可能だと考えた.そこで,口腔に隣接する口蓋扁桃に着目し,簡便な手技によって菌種特異性と菌体凝集能の高いS.mutans特異的唾液SIgAを多量に誘導できる扁桃投与法を開発した.そして,平成10年度科学研究費補助金(奨励研究(A))によって,S.mutansと同様にヒトに齲蝕原性を示すS.sobrinus死菌全菌体の扁桃投与によって誘導した唾液SIgAに実験的齲蝕の予防効果があることを動物モデルにおいて明らかにした. 平成11年度は,誘導されたS.sobrinus特異的唾液SIgAによる齲蝕予防法の安全性について検討を行ない,筋注投与法と比較した.扁桃投与と筋注投与によって誘導された抗体は,いずれも3種類の抗体,すなわち投与したS.sobrinus AHT-kと反応する特異抗体,血清学的に近縁なレンサ球菌と反応する交差抗体,および血清学的に関係が薄いレンサ球菌とも反応する非特異抗体から成り立っていた.しかし,扁桃投与では特異抗体が多く,非特異抗体はわずかであった.筋注投与では,逆に,非特異抗体が多かった.扁桃投与で多く誘導される特異抗体と交差抗体は,いずれもS.sobrinus AHT-kの糖抗原を認識していた.筋注投与で多く誘導される非特異的抗体は,レンサ球菌に共通なタンパク抗原を認識していた.このように,扁桃投与法は特異性が高い抗体を多く誘導できることが示された. このことは,扁桃投与法で誘導した抗体が,口腔常在菌の中からミュータンス群レンサ球菌だけを選択的に排除でき,齲蝕を効果的に予防できる可能性が示された.
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