研究概要 |
修復用レジンと象牙質の接着においてアスパラギン酸誘導体であるN-acryloyl aspartic acid(N-AAsp)の作用機序を解明するために、前年度はN-AAspとアパタイトの反応生成物について検討した。反応物はN-AAspとDCPDの塩であった。そこでDCPDをN-AAsp水溶液に直接添加して接着強さ、樹脂含浸層の生成に及ぼす影響を検討したところ、樹脂含浸層の構造は変化するものの、接着強さは低下しなかった。 そこで、本年度はN-AAsp水溶液にDCPDの添加を行い、添加したDCPDがN-AAsp溶液処理した歯面上で生成する反応塩の結晶性に及ぼす影響について検討した。結晶性の良い反応塩を接着界面に析出させることで,樹脂含浸層の質的向上が図れると考えたからである。 本年度は反応塩の結晶性をX線回折装置(XRD)にて測定した。反応塩の結晶性はN-AAspプライマーにDCPDを溶解・添加することで向上し、DCPDを添加しない場合と比較して明らかに結晶性の向上が認められた。またアパタイトとN-AAspを反応させ、反応塩をアパタイト上に析出させ、その後アセトンもしくは蒸留水で洗浄を行いFT-IRで分析したところ、1600cm^<-1>を中心とする反応物由来のピークは蒸留水による洗浄により消失するが、アセトン洗浄では消失しなかった。このことは反応物が水溶性であるためと考えられた。すなわちDCPD添加により水溶性ではあるが結晶性のよいN-AAsp-DCPD複合体を樹脂含浸層に析出させることできた。 今回の研究の結果より、N-AAspプライマーにDCPDを添加をすると樹脂含浸層に結晶性のよいアパタイトを析出させることが可能であり、接着性の向上に寄与できると考えられた。
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