研究概要 |
現在の歯科用接着性レジンセメントのうち,シリカフィラーを主成分としたコンポジット型接着性レジンセメントは,耐摩耗性,耐水性および熱的特性などが優れている反面,弾性率が高く脆性であるために破壊靭性値が低く,硬くて脆いという問題を抱えている。本研究では,咬合力あるい被着体間の熱膨張係数の違いから発生するひずみを接着材層で吸収・分散させ,常に接合部界面に残留応力が少なくする設計思想に基づき,新規弾性接着材の開発・検討を試みた。アクリルコアシェルポリマーを配合した試作接着材を作製し,その各種物理的性質および接着強さについて検討した結果,以下の結論を得た。1.従来のコンポジット型接着性レジンセメント(以下既製セメント)にコアシェルを配合することにより,たわみ量を大幅に改善し,大きなひずみに相当する繰り返し荷重にも対応できた。2.コアシェル配合により,圧縮強さが既製セメントの15〜65%程度に低下し,配合率の増加に比例して物性低下を招いた。また,コアシェルの配合は接着要件である被膜厚さや溶解量には影響を及ぼさなかった。3.コアシェルを配合した試作接着材の歯科用合金およびエナメル質に対する熱サイクル後の接着強さは既製セメントと同等の値を示した。コアシェルを10%配合した場合,象牙質に対する接着強さは,熱サイクル後も初期の接着強さを維持し,有意に高い接着強さを示した。これは被着体同士の熱的膨縮差が大きい場合,接着材に加わる繰り返し応力に対応できたことを示す。4.SEM観察から,コアシェルが配合されても樹脂含浸層が生成され,接着モノマーの象牙質微細組織への浸透・拡散には影響を及ぼさなかった。 以上の結果から,コンポジット型接着性レジンセメントのマトリックスの一部をアクリルコアシェルポリマーで構成することで,高い接着性能を維持しながら弾性変形量を増大させる可能性が示唆された。
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