研究概要 |
加齢に伴う嚥下反射の低下は,口腔相から咽頭相への送り込みの遅延によるところが大きいことが報告されている.一般に,口腔相から咽頭相への移行時には上下歯が接触するといわれていることから,高齢者においては咬合の喪失が嚥下機能に何らかの影響を及ぼしている可能性が考えられる.そこで,高齢者の嚥下反射の遅延に咬合の影響があるか否かを明らかにする目的で,インフォームド・コンセントが得られた神経学的異常およびその既往を認めない70歳以上の高齢無歯顎者6名(男性2名,女性4名)ならびに有歯顎者3名(男性1名,女性2名),さらに対照として成人有歯顎者6名(男性3名,女性3名,平均年齢24.3歳)を対象として,10倍希釈バリトゲンゾル10ml嚥下時の動態をX線映画装置を用いて比較検討した. その結果,無歯顎者の無歯顎時6名中5名に1回以上の喉頭流入が認められ,これらの状態は総義歯の装着によってもほとんど改善されなかった.一方,有歯顎者で喉頭流入を認めたのは1名で1回のみであった.口腔通過時間は,無歯顎者の無歯顎時において有歯顎者や対照者に比べて有意に長くなり(p<0.05),高齢無歯顎者では,口腔相から咽頭相への送り込みの退延が大きいことが示唆された.また,咽頭通過時間は対照者において有意に短く(p<0.05),従来の医科での報告とよく一致していた. 本研究の結果は,限られた対象者数から得られたものではあるもの,高齢者の嚥下反射の遅延に咬合の喪失が影響することを示唆するものとなった.嚥下機能に関する過去の研究はほとんどすべて医科領域においてなされており,本研究の結果は,超高齢社会において,今後ますます重要性が高まる摂食嚥下障害の治療,リハビリテーションに歯科がより積極的に関わっていかなければならないことを示している。申請者らは,さたに被験者数を増やし,また嚥下機能障害を呈する患者を対象とした研究を次年度新たに申請しており,この領域の更なる解明に努める予定としている。
|