研究概要 |
1.目的 顎口腔系の運動能力は歯の欠損や義歯の状態などによって影響されるだけではなく,加齢,老化や全身的な運動能力とも関連する.高齢者の顎口腔系の機能評価にあたり,特に無歯顎者では下顎骨自体の運動を観察することは困難であるため,顔面の動態から下顎運動を推測できれば臨床上きわめて有益である.そこで,多点動作解析システムに仮想点挿入プログラムを導入し,基本運動,咀嚼,発音運動時の顔面皮膚上標点,および下顎骨上仮想点の運動経路,運動量の比較を行っているが,本研究では中心咬合位と下額安静位における部位による両者の一致度を検討した. 2.方法 被験者は健常有歯顎者10名で被験者の顔面皮膚上に光反射性標点をオトガイ点およびその正中後方2点(Me1,Me2,Me3),左右顎角,下顎下縁の左右2点づつ(M3,M6,G),計9点を貼付した.また,3個の標点を設置したマーカーを下顎歯列に装着した.さらに2個のマーカーを設置した棒状ポインタ-を用いて,静止時の下顎下縁,オトガイ正中部の3点の計9部位の皮膚上標点を順に指示し仮想点データとした.被験者の顔貌を6台の高速度ビデオカメラで上下左右6方向から撮影し,Data Station(VICON 370,Oxford Metrics社製)へ収集したデータをリアルタイムでWork Stationへ転送し,立体構築する.これらを,独自に開発した任意点挿入プログラム(nac社製)によって合成し,皮膚上標点と仮想下顎骨上点の運動量を比較した. 3.結果と考察 安静位における移動距離の差の分散分析では,部位および皮膚上標点と仮想点間,被験者別で有意性が認められた.部位別には,平均値は正中部のMe2,1,3で両者の差が小さいが,一般に後方の部位ほど差が大きい.これは軟組織中を下顎骨が移動する量が大きいためと思われる.各部位の観点と仮想点間の検定結果(t-test)ではMe2以外のすぺてで有意差が認められ,仮想点の方が移動距離が大きかった.以上から下顎骨と皮膚が最も同期して移動するのはオトガイ前方下面(Me2)であることが示唆された.
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